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池田啓一医師

10.尖足について

尖足…足がつま先立ちでかかと(踵)が浮いた状態を言います。

(歩けなくても緊張により尖足になることはしばしばです。)

異常緊張に伴う足の変形の1つでパッと見てわかりやすく、これを主訴(主な気になる症状)として外来に来られる方も多いです。

尖足・・・これって“悪“ですか?

外股歩きや内股歩きは許せて「尖足」は許せませんか?

つまり普通に言う外股歩きや内股歩きは特に病気が原因ではないのです。痙性麻痺の尖足は「痙性」という病気があって起こっている状態なのです。しかもそれは進行することが多く、坐位・立位・歩行の障害になったり、転倒しやすい、疲れる、痛い、ケガをするなどの状態を引き起こす可能性があるのです。だから治療を考えるのです。「つま先歩き」であれば歩けるから歩いているわけで、「尖足」で歩いてはいけない、という法律があるわけではありません。そういったことをきちんとわかっていないと何のための治療なのかわからなくなります。

尖足に対しても治療としては最終的にOSSCSをお勧めすることが多いのですが、股関節であれ足であれ、異常な緊張が少しでも軽くなれば御本人は楽になると思います。その中で昔よく行われていた(今でも積極的に行っているDr.もおられると思いますが)アキレス腱延長術は非常に注意を要する手術の1つです。尖足の一番の原因である下腿三頭筋の力を伝えるアキレス腱を緩めることは理論からしてもよいのですが、延長しすぎると取り返しのつかない逆変形(踵足といいます)、つまり足先を下に踏み込みにくい足になってしまい、自力での立位や歩行が不可能、あるいは非常にしにくい状態になってしまいます。人間の足には下に踏み込む力があるからこそ立ったり歩いたりすることができるのです。この力が弱くなると先ほどお話ししたような悪夢が起こってしまいます。このようになってしまった方々が以前は多くおられましたし、今でもいるのではないかと思います。運動能力が手術によって悪くなった、という評価をしなくてはなりません。過去に整形外科の手術は良くないとレッテルを貼られた原因の1つがこのアキレス腱の延長しすぎなのです。それを、「装具を履かせやすくなった」などと言って隠してしまっていることもあるのです。

このように尖足の治療というのは足を下に踏み込む力を残しつつ尖足を軽減させるというある意味矛盾した難しい治療になるのです。こういったことを理解しているかどうかが問題です。私たちはアキレス腱だけでなく他の尖足の原因になる筋肉も含めて手術を行い、できるだけアキレス腱の延長をしないで済むように、また行っても最小限にとどめる努力をしています。踵を地面にきれいに着かせようとしすぎると前述したようなことが起こる可能性が高くなり、私はある程度尖足が軽減するところを目指して治療を行っています。結果踵が浮いていることもしばしばですが、手術前よりも良くなっているのです。また手先や足先ほど筋肉の数、関節の数も多く精密にできており、成長期等に再発しやすいのです。再発の危険性が高いので小さい頃の手術は避けたい気持ちもあります。しかし尖足が非常に強い方や、尖足を少しでも軽減すれば運動能力の改善が期待できる場合などは再発を考慮してOSSCSをお勧めします。手術の内容を決めるときも、術後にギプスを巻くのですが、そのギプスによってストレッチ効果が得られ尖足が軽減する可能性もあり、そういったことも頭に入れて手術の内容を決めることが大事かと思います。

何度も繰り返しますがどんな治療を行っても正常にはなりません。尖足も全く正常に治すことは不可能です。安全の中で行い、ある程度のところで何とかがんばって生きていく必要性があると思いますし、最終的には行き着いたところがその方の正常であるといった考えを持たなければいつまでたっても御本人はきつい思いをするでしょう。これも私の考えの1つです。